便秘の治療~自然排便を目指して~

 便通が悪くてつらい思いをされている方や市販の下剤を使ってもうまくいかない方、便が硬くて排便時に痛みを伴う方など様々な便通の悩みを抱えて来院されます。排便は、本来便が出ることで快適となりスッキリとした気持ちが得られるものであり、決して苦痛を伴う辛い行為ではないはずです。
 便通の悪い方は決まって「便を出す」と表現されます。頑張らないとうまくいかない行為です。一方便通の良い方は「便が出る」と表現されます。頑張ることではなく自然の行為です。
 便通の良い方はいつも良い便です。良い便で初めて腸管の蠕動運動は良くなりまた排便もスムーズになります。
 良い便になると、便意をもよおして便器に座ると頑張ることなく即座に便が出ます。また良い便になると毎朝ほぼ決まった時間にもよおすようになり、昼とか夜に排便することが殆どなくなります。良い便になれば、毎朝、1分前後の排便となっていきます。

説明を分かりやすくするために、以下では便の性状分類―ブリストルスケールを用います。

ブリストルスケール図
ブリストルスケール

出典元:『排泄ナビ』
※スケール部分のみ表示

  1. 良い便(スケール4)にするために酸化マグネシウムを使います。酸化マグネシウムは炭酸マグネシウムに変化して、便に混ざると便の水分を保ってくれます。便を出す作用は全くありません。酸化マグネシウムは体に働くのではなく、便に働きます。
  2. 良い便にするためには、2~3日に1回出る方は酸化マグネシウム(330mg)1日2錠、4~7日に1回出る方は1日3錠で始めてください。1日2錠は朝1錠夜1錠(1,0,1)、1日3錠は(1,1,1)または(1,0,2)が理想の飲み方です。
  3. 飲み始めて次の次ぐらいの排便から便の性状が変わってきます。良い便(スケール4)であれば毎日出るようになります。毎日出なければ便が硬いと考えて1錠増やしてください。
  4. 良い便(スケール4)になると、多くの方が毎朝、1分前後の排便が達成されるようになってきます。良い排便を続けていくと時々やや柔らかい便(スケール5)が出るようになります。
  5. 薬は便を出す作用がありませんので、毎日便が出るのは薬を飲んでいるからと考えるのではなく、薬で良い便にしたので自分の腸が良く働きだしたと考えてください。時々スケール5の便が出るのは、腸が良く働きだしたため、薬の必要性が徐々に減ってきたと考えてください。腸が元気になればやがてスケール5の便が続くようになります。3~4日続いたら薬を1錠減らしてください。3日後ぐらいにスケール4に戻ります。以上のように1錠ずつ減らすことができて、酸化マグネシウムなしで毎日排便できるようになる方もいます。
  6. 酸化マグネシウム(330㎎)1錠はブリストルスケール一つ分に対応します。スケール5が続いたときに1錠減らすとスケール4になります。1錠減らしたら、その効果は3日後ぐらいに現れます。
  7. 酸化マグネシウムを渡されるとき、自分で調節してくださいと言われると思います。しかしその日の便を見て増やしたり、減らしたりすると必ず失敗します。

酸化マグネシウムによる便秘の治療は、酸化マグネシウムで良い便にすることによって、腸管が本来持っている蠕動の力を復活させるのだと考えてください。

当院では酸化マグネシウム単独で9割以上の方が毎日排便できるようになっています。

困難な方もいます。

  1. 毎日刺激性下剤を飲んで毎日便を出している方、またほとんどの排便を刺激性下剤で出している方、まずは刺激性下剤をやめて、酸化マグネシウム1日3錠または4錠で始めてください。最初のうちは便が出ないと不安な気持ちになるでしょうから、無理せずに刺激性下剤を使ってください。できたら弱い刺激性下剤(当院ではラキソベロン)を使ってください。大体2週間以内に酸化マグネシウム単独で出るようになります。例えば酸化マグネシウム3錠で毎日スケール4の良い便が出れば3錠を続けてください。3錠で2日から3日に一回出なければ1錠増やして4錠で続けてください。3錠でスケール5の軟便が続けば1錠減らして2錠で続けてください。刺激性下剤をやめて、酸化マグネシウム単独で排便できるようになると、ほとんどの方が快適な排便になったといわれます。
  2. パーキンソン病の方は病気自体、それに加えてパーキンソン病薬の副作用で腸管の蠕動が悪くなります。酸化マグネシウム単独ではなかなかうまくいきません。酸化マグネシウムで良い便にして、出ない時は弱い下剤(ラキソベロンなど)を使われると良いと思います。
  3. 最近整形外科でトラマールやトラムセットなどの非麻薬系オピオイドの痛み止めが良く使われるようになっています。これも非常にひどい便秘になります。
  4. 他にも便秘になる薬があります。風邪薬(咳止めを含む)、少しですが便秘傾向になる薬はアレルギー性鼻炎などに使われる抗アレルギー薬、神経を中心とした痛みに使われるリリカやタリージェ、夜間頻尿などに使われる泌尿器科の薬があります。薬ではありませんが柿は便を硬くします。

最後に伝えたいこと
 酸化マグネシウムは水和という化学反応にて水分子をひきつけます。この反応は化学反応のため、誰にでも同じように必ず起きることです。酸化マグネシウム(330mg)1錠はブリストルスケールほぼ一つ分に対応します。
(1,0,1)でスケール3であれば1錠増やして(1,1,1)にすればスケール4になります。非常に調節性の良い薬です。
 最近モビコールという薬が使えるようになりました。モビコールも水和という化学反応で水分子をひきつけて水分を大腸に運びます。モビコールも酸化マグネシウムも共に大腸へ水を運ぶ薬です。両者はほぼ同じ作用ですが酸化マグネシウム500㎎がモビコール1Pとほぼ同等の働きをします。
 便が硬いとき水をたくさん飲めば便が柔らかくなると誤解している方がたくさんいます。水をたくさん飲んだらおしっこが増えるだけです。水を大腸に運ぶためには酸化マグネシウムやモビコールのような薬が必要ということです。